


対局のクライマックスで羽生善治九段の手が小刻みに激しく震えているシーンを目にしたことはありませんか?
駒を持つ指先がブルブルと震え、時には駒台の駒を落としそうになるほどの激しい震え。「体調が悪いのかな?」「プレッシャーで緊張しているの?」と、初めて見た時は心配になって検索してしまった方も多いはずです。
実は、アマチュア初段レベルである私自身も、対面で将棋を指す時に全く同じように「手が震える」経験を何度もしています。
この記事では、羽生先生のような超一流棋士からアマチュアまで、将棋指しを突然襲う「手の震え」の正体について、私自身の実体験も交えながら分かりやすく解き明かします。
理由を知れば、これからの将棋観戦が何倍も熱く、面白いものになりますよ!
結論から言うと、あの激しい手の震えは、プレッシャーによる緊張や体調不良からくるものではありません。
複雑な盤面の中から、ついに勝利への道筋を発見し、「勝ちを確信した瞬間」に起こる強烈な武者震いなのです。
迷霧がパッと晴れてゴールが見えた瞬間、極限まで高ぶった脳の興奮が一気に肉体を突き抜けて指先の震えとなって表れます。
プロの公式戦、特に持ち時間が少ないNHK杯などのテレビ対局やタイトル戦の終盤は、たった一度のミスでこれまでの努力が水泡に帰す極限状態です。
そのプレッシャーの中、脳に大量の酸素と血液を送り込んで異常なまでの集中力を発揮している状態から、突如として「勝ち」という解放感が訪れる。アドレナリンが急激に分泌され、自分でもコントロールできないほどの震えが生じるのは、人体のメカニズムとして非常に理にかなった現象だと言えます。
「プロのすごい世界の話だ」と思われるかもしれませんが、実はこの現象、アマチュアの対局でも起こります。
私自身の実体験をお話しさせてください。
私はアマ初段レベルですが、地域の将棋大会などで「自分よりも明らかに実力が上の相手」と当たる時があります。
必死に食らいつき、終盤戦の息詰まる攻防の中、ふと「これ、勝てるぞ!?」と詰みの手順を発見した瞬間。
心臓の鼓動がドクンと跳ね上がり、スーッと血の気が引くような感覚と同時に、指先が勝手にブルブルと震え始めるのです。
震えが始まると、盤面に集中したいのに余計な雑念が頭をよぎります。
「相手は、私が『羽生さんの真似をして、わざと手を震わせてアピールしている生意気なヤツだ』と思っているんじゃないか……」
そんな自意識過剰な恥ずかしさが込み上げてくると、震えを止めようと焦れば焦るほど、余計に震えは大きくなってしまいます。
一度震え出すと、深呼吸をしようが絶対に止まりません。
そのまま駒を持とうとすると、カチャカチャと音を立てて落としてしまうほどです。
どうするかというと、駒を持つ右手の手首を空いている左手でギュッと押さえつけ、無理やり震えを固定しながら盤上に駒を置くことになります。
みっともないと思われるかもしれませんが、これが対面で将棋を指す時の泥臭くも熱い現場のリアルなのです。
この「震え」の理由を知った上で中継を見ると、将棋の面白さは劇的に変わります。
観る将の皆様に注目してほしい3つのポイントをご紹介します。
解説のプロ棋士でさえ「羽生さん、苦しいですね」「これは負けかもしれません」と言っている絶望的な状況。
そこで突然、羽生先生の手が震え出したら画面に釘付けになってください。
それは、誰も気づかなかった大逆転の妙手、いわゆる「羽生マジック」がこの直後に炸裂する究極の合図です。
自分が有利だと思っていた対局相手の目線になってみてください。
目の前で、あの最強の羽生善治の手が震え出した。
「えっ、自分が気づいていない詰み(負け)がどこかに隠されているのか!?」
言葉を一切発さなくても、手の震えだけで相手に絶望的な恐怖とプレッシャーを与える。
これもまた、盤外で繰り広げられる高度な心理戦の一つです。
今の時代、画面の端にはAIの評価値がパーセンテージで常に表示されています。
システムは冷徹に「先手99%」と数字を出すだけです。
しかし、その数字の裏側では、生身の人間が命を削るような集中力で盤面に向かい、勝利の瞬間に手が震えるほどの極限のドラマを生み出しています。これこそが、私たちが将棋というゲームに惹きつけられてやまない最大の理由です。
羽生善治先生の手の震えは、体調不良ではなく、勝利への道筋を全力で見つけ出した証である「武者震い」です。
そしてそれは、プロのタイトル戦であっても、名もなきアマチュアの大会であっても、将棋盤に向かって真剣に考え抜いた者にだけ訪れる共通の「勲章」のようなものだと私は思っています。
次にテレビやネット中継で羽生先生の対局を見る時は、ぜひ終盤の指先に注目してみてください。
そして、激しい震えとともに放たれる一手に、一緒に心を震わせて応援しましょう!